国際的なAI規制の動向

はじめに

AI規制を概観するために、本稿では主に国際的なAI規制の議論の状況について解説します。AI規制については日本も含めて数多くの国で検討されています。一方で、AIが利用される範囲から、一国で規制が完結する領域ではないため、国際的な議論に目を向ける必要があります。

広島AIプロセス

G7広島サミットの結果を踏まえ、2023年5月に、G7関係者が参加して生成AIについて議論するための「広島AIプロセス[1]」が設けられました。同プロセスでは、閣僚級オンライン会合の開催や、多様なステークホルダーからの意見取り入れの機会が設けられています。2023年10月30日、広島AIプロセスに関するG7首脳声明が公表されました。「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」「高度なAIシステムを開発する組織向けの広島プロセス国際行動規範」も併せて公表がなされています。国際指針には以下の原則が含まれています。

  1. AI ライフサイクル全体にわたるリスクを特定,評価,軽減するために,高度な AI システムの開発全体を通じて,その導入前及び市場投入前も含め,適切な措置を講じる
  2. 市場投入を含む導入後,脆弱性,及び必要に応じて悪用されたインシデントやパターンを特定し,緩和する
  3. 高度な AI システムの能力,限界,適切・不適切な使用領域を公表し,十分な透明性の確保を支援することで,アカウンタビリティの向上に貢献する
  4. 産業界,政府,市民社会,学界を含む,高度な AI システムを開発する組織間での責任ある情報共有とインシデント報告に取り組む
  5. 特に高度な AI システム開発者に向けた,個人情報保護方針及び緩和策を含む,リスクベースのアプローチに基づく AI ガバナンス及びリスク管理方針を策定し,実施し,開示する
  6. AI のライフサイクル全体にわたり,物理的セキュリティ,サイバーセキュリティ,内部脅威に対する安全対策を含む,強固なセキュリティ管理に投資し,実施する
  7. 技術的に可能な場合は,電子透かしその他の技術等,ユーザーが AI が生成したコンテンツを識別できる,信頼できるコンテンツ認証及び来歴メカニズムを開発・導入する
  8. 社会的,安全,セキュリティ上のリスクを軽減するための研究を優先し,効果的な軽減策への投資を優先する
  9. 世界の最大の課題,特に気候危機,世界保健,教育等に対処するため,高度な AI システムの開発を優先する
  10. 国際的な技術規格の開発を推進し,適切な場合にはその採用を推進する
  11. 適切なデータインプット対策を実施し,個人データ及び知的財産を保護する

 ブレッチリー宣言

2023年11月1日、AI安全に関する英国サミット(AI Safety Summit)において「ブレッチリー宣言(Bletchley Declaration)[2]」が採択されました。宣言では以下のような内容に特に焦点が当てられています。

  • 社会におけるAIの影響を理解するためのより広範なグローバルなアプローチの文脈において,共通の懸念であるAIの安全リスクを特定し,共通の科学的及び証拠に基づく理解を構築し,能力が増加する中での理解を維持する.
  • リスクを考慮した安全性を確保するために,各国でリスクベースのポリシーを構築し,状況や適用される法的枠組みに基づいてアプローチが異なる可能性があることを認識しつつ,適切に協力する.これには,民間主体の透明性の向上,フロンティアAI機能,適切な評価指標,安全性試験のためのツール,関連する公共部門の能力と科学研究の開発が含まれる.

本宣言は29の国・地域によって採択されており,日本,米国,EUに加えて中国も含まれています.

AI並びに人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組み条約

欧州評議会(Council of Europe)(本部:フランス・ストラスブール)による「AI並びに人権、民主主義及び法の支配に関する欧州評議会枠組み条約(Council of Europe Framework Convention on Artificial Intelligence and Human Rights, Democracy and the Rule of Law)」は、人権、民主主義、法の支配の分野における初の国際的な法的拘束力のある条約です。2024年9月5日に署名が開始されたこの条約は、人工知能システムのライフサイクルにおける活動が、人権、民主主義、法の支配と完全に一致し、技術の進歩と革新を促進することを目的としています。

この国際条約は、EUのAI法と同様に、AIの信頼性を高めて活用を促進するための枠組みの一つとして位置付けられ、AIが人権や民主主義、法の支配といった基本的価値を損なわないよう適切な措置を求める内容となっている。AI法と比べて抽象度の高い内容であるが、今後、世界各国でAI法を展開する場合には、この条約が参照される。今後、AIの進化に対応するためにEUがAI法を改定することがあっても、欧州評議会のこの国際条約は変わることなく、重要な役割を果たしていくことが予想されます。

欧州評議会は、人権、民主主義、法の支配の分野で国際社会を主導することを目的に1949年に創設された国際機関である。EUの全加盟国を含む46カ国がメンバーであり、日本や米国もオブザーバーとして参加しています。

まとめ

以上のように、本稿では国際的なAI規制を概観しました。広島AIプロセスやブレッチリー宣言に見られるように、国際的にもAI規制の必要性が認識されています。各取り組みで採択されている原則は、今後のAI規制を見通すうえで重要な指針になります。一方で、具体的にどのような規制を設けるが適切かについては、各国においてまだ温度差があります。具体的にどのような規制に対応する必要があるかについても、各国の動向を注意深く見守る必要があります。

参考文献

[1] https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/

[2] https://www.gov.uk/government/publications/ai-safety-summit-2023-the-bletchley-declaration

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